増分CPAとは?計算方法や通常のCPAとの違いに具体的な改善施策を解説
増分CPA(Incremental CPA)とは、広告施策によって「本当に増えたコンバージョン」を可視化する指標です。通常のCPAとの違いやA/Bテスト・Google Ads実験による計測手法、増分CPAを下げる具体策、そしてPDCAサイクルを活用した最適化の流れをわかりやすく解説します。
▼この記事でわかること
- 増分CPAとは?通常のCPAとの違いや、その役割について
- 増分CPAの計算方法
- 増分CPAを改善するための具体的な施策
増分CPAとは?
増分CPA(Incremental CPA)とは、ある広告施策によって増加した成果(コンバージョン)のみを対象に算出されるCPA(Cost Per Acquisition)指標です。
従来のCPAが「全コンバージョン数」に対して広告費を割るのに対し、増分CPAは広告を出さなかった場合には発生しなかったであろう“増分のコンバージョン”をベースにするため、真の広告効果を可視化しやすいという特徴があります。
通常のCPAとの違い
- 通常のCPA
広告経由で計測された「すべてのコンバージョン」から算出
既存顧客や自然検索(オーガニック流入)でも獲得し得たユーザーが混ざり、広告の影響が薄いコンバージョンも含まれる
- 増分CPA
「広告投下がなければ得られなかったであろうコンバージョン」=「インクリメンタルコンバージョン」のみを対象に算出
広告施策の純粋な増分効果を測るため、広告運用の最適化指標として有効
増分CPAのメリットや目的
増分CPAには、どのような役割があるのでしょうか?メリットやその目的は、基本的に以下の3点に集約されます。
純粋な広告効果を把握できる
従来のCPAには、もともと広告以外で獲得可能だったユーザーのコンバージョンが含まれがちです。増分CPAは「広告配信によって上乗せされた成果」を明確にするため、無駄な広告費を可視化できます。
投資対効果の改善に役立つ
増分CPAが高い=「増分成果のわりに広告費をかけすぎ」と解釈できるため、費用対効果をより正確に判断できます。これにより、効率の悪いキャンペーンやアプローチの見直しが容易になります。
他施策との兼ね合いを最適化できる
広告以外のチャネル(SNS、オフライン、口コミなど)でどの程度成果が生まれているかも併せて考慮しやすくなります。結果として、マーケティング戦略全体の最適化につながります。
増分CPAの注意点
増分CPAの注意点も確認しておきましょう。
測定には追加コストや工数がかかる場合がある
増分CPAを算出するには、通常のコンバージョントラッキングに加え、「広告なしの場合との比較」などの実験的データが必要です。計測や解析の体制を整えるためにリソースを要する可能性があります。
データの粒度や統計的有意性に注意
増分CPAは、A/Bテストやリフト分析などにより「広告の有無」「訴求内容の違い」を比較する手法で導出します。サンプル数が少ないまま算出すると、誤差が大きくなるので注意が必要です。
必ずしも他すべての指標の代替になるわけではない
事業フェーズによっては獲得総数の拡大が重要な場合や、新規顧客認知を優先する場合があります。増分CPAは“増分”という観点には優れていますが、ビジネス目標に応じた複数指標の併用が望ましいです。
増分CPAの計算方法
増分CPAは「増分コンバージョン数」をベースに、以下のような式で算出します。
増分CPA = 広告投資額 ÷ 増分コンバージョン数
ここでの「増分コンバージョン数」とは、テスト群(広告を出稿)とコントロール群(広告を出稿しない)を比較して得られた「差分のコンバージョン数」です。
テスト群(広告あり)のCV数 – コントロール群(広告なし)のCV数
= 増分コンバージョン数
どの指標やデータを使って算出するべきか?
- A/Bテストの実験結果
- リフト分析(Lift Analysis)
- Google Adsの「実験機能」
これらの方法を正しく組み合わせることで、「広告施策によって本当に増えた成果」をより正確に把握できるようになります。詳細は、以下の通りとなります。
A/Bテストの実験結果
A/Bテストとは?
A/Bテストは、ユーザーを2つ(あるいは複数)のグループに分けて、広告訴求やクリエイティブ、もしくは広告配信の有無などを変化させ、どのグループがより良い成果を上げるかを比較する手法です。
- テスト群:新しい広告施策を実施する(例:新しいクリエイティブやオファーを表示)
- コントロール群:旧バージョンの広告や通常設定のまま(例:何もしない、または従来の広告を表示)
A/Bテストでの増分効果計測のポイント
- 差分のコンバージョン数を比較
テスト群とコントロール群のコンバージョン数をそれぞれ測定し、テスト群のコンバージョン – コントロール群のコンバージョン = 増分コンバージョン
- テスト期間を決めて並行配信
テストを行う期間を一定に設定し、可能な限り同じ条件(時期・ターゲット条件など)で比較する
- サンプルサイズ(ユーザー数・クリック数)を確保
数日や数十件のコンバージョンだけでは結果にばらつきが大きくなりがちなので、十分なデータを集めることが重要
例えば、テスト群が「特別割引つきの新しい広告クリエイティブ」でコンバージョン数100件、コントロール群(通常の広告クリエイティブ)が80件だった場合、差分の20件が「新しい広告を出したことで増えた成果(=増分CV)」とみなせます。
リフト分析(Lift Analysis)
リフト分析とは?
リフト分析(Lift Analysis)とは、広告の有無に限らず「マーケティング施策を行ったグループ」と「施策を行わなかったグループ」もしくは「別の施策を行ったグループ」との成果の差を、統計的に評価する手法です。
- 全体の成果(コンバージョン)を見たうえで、広告がどれだけ上乗せしたかを推定する
リフト分析の進め方
- テストデザイン
例:ある地域やユーザー属性を対象に広告配信を行い、別の地域や属性には広告を配信しない
- 比較する指標
広告の表示回数やクリック数、実際のコンバージョン数など
- 「統計的有意」かどうかの検証
偶然のバラつきや外部要因の影響を排除し、広告施策による差分かどうかを調べる
リフト分析でわかること
- 「もし広告を出さなかった場合はどの程度コンバージョンが発生していたか?」を推定できる
- 広告施策の直接的な貢献度を把握することで、真の増分コンバージョン数をより正確に捉えられる
例えば、広告配信地域では累計500件のコンバージョン、未配信地域では300件のコンバージョンがあった場合、広告によるリフト効果=200件とみなし、そこから増分CPAを算出します。
Google Adsの「実験機能」
Google Adsのドラフトと実験とは?
Google Adsには「ドラフトと実験」という機能があり、同じキャンペーン設定をコピーして一部を変更した実験キャンペーン(ドラフト)を作成できます。
指定した割合でユーザーに配信することで、同時並行でテストを行い、増分効果を比較しやすくなります。
実験の具体的なやり方
- メインキャンペーンからドラフト作成
例:目標CPAの設定を変える、広告文を変える、あるいは配信地域を変えるなど
- 実験の配信割合を設定
たとえば、50%のユーザーは従来キャンペーン(コントロール群)、もう50%は実験キャンペーン(テスト群)に振り分け
- 一定期間配信して比較
コンバージョンや費用、CPA、その他の指標を比較し、どの程度成果が上乗せされたか(増分)があるかを確認
Google Ads実験を使うメリット
- 同時並行でテストができるため、正確な比較がしやすい
- 管理画面で結果がすぐに見られる(Google Ads上で、テスト群とコントロール群のパフォーマンスをまとめてチェックできる)
- 実験結果をワンクリックで本番に反映可能(成果の良かったドラフト設定をそのまま正式なキャンペーンに適用しやすい)
例えば、テスト群(新しい目標CPA設定)では月間コンバージョン数が120件、コントロール群(従来の設定)では100件だったとします。この差分20件が増分CVと判明すれば、そのために追加でかかった広告費を差し引き、増分CPAを算出して効率的な運用ができるか判断します。
Google Adsでの計測手順
それでは、次よりGoogle Adsでの増分CPA計測手順を見ていきましょう。
1.キャンペーンエクスペリメント(実験)を活用する
前述の通り、Google Adsには「ドラフトと実験」という機能があります。これを使い、テスト群で新しい入札戦略やクリエイティブを試し、コントロール群で従来の設定を維持することで、増分コンバージョン数を把握することができます。
2.実験期間と予算配分の設定
十分な期間(通常2~4週間程度)を確保し、両群ともに必要なインプレッションやクリックが得られるように配分を行いましょう。
実験対象の分割率(例えば50%:50%)を適切に設定し、データの偏りを最小化します。
3.リフト測定と結果分析
実験終了後、テスト群とコントロール群のコンバージョン数や広告費を比較します。差分のコンバージョン数と追加でかかった広告費から増分CPAを算出し、施策の有効性を判断します。
4.実験レポートの作成と施策反映
実験機能のレポートを活用し、増分CVやCPA、コンバージョン率などの指標を可視化しましょう。有効性が確認できた施策はメインキャンペーンに反映し、最適化を進めます。
増分CPAを下げるための手法について
さて、ここまでで増分CPAの目的や計算方法、そして実際の計測手順を確認したわけですが、次からは増分CPAを改善する具体的な手法を紹介したいと思います。
ターゲティングの見直し
インクリメンタルコンバージョン(広告投下がなければ得られなかったであろうコンバージョン)が高い見込み顧客に優先的にアプローチするのが有効です。また、ユーザー属性や興味関心、リマーケティングリストなどの細分化により、無駄な配信を抑制しましょう。
クリエイティブの改善
広告の訴求ポイントやデザイン、ランディングページ(LP)の最適化により、コンバージョン率を向上させましょう。同じ広告費でもCV数を増やすことで、増分CPAは低減できるからです。
入札戦略の最適化
Google Adsの自動入札戦略(目標CPA、目標ROAS、最大コンバージョンなど)を活用し、適切な入札単価を維持しましょう。検索クエリレポートやスマート自動入札の学習状況を定期的にチェックすることが大切です。
アトリビューションモデルの再検証
増分効果をより正確に把握するために、ラストクリックだけでなく「データドリブンアトリビューション」などのモデルも検討してください。ユーザーが複数チャネルを経由する場合には、上流施策の影響も適切に評価します。
どのようなキャンペーンで増分CPAを重視するべきか?
どのような広告キャンペーンで増分CPAを重視するべきなのでしょうか?以下より代表的な2つの例を挙げましたので、ご自身の広告・マーケティング対象と合致するか、確認してみましょう。
ブランドキャンペーンやリマーケティング
もともとブランドを認知しているユーザーに広告を配信する場合、通常のCPAでは高い効果があるように見えがち。しかし、増分ベースで見るとほとんど新規の成果を生み出していない可能性もあるため、増分CPAで検証する必要があります。
大型キャンペーンやセール時の短期集客
大きな予算を投入するタイミングほど、無駄な広告費がかかっていないか慎重に監視するために、増分CPAを取り入れると有効です。
増分CPAを踏まえたPDCAサイクル
- Plan(計画)
- 増分CPAをKPIに設定し、A/BテストやGoogle Ads実験で比較する広告施策を企画。
- 設定目標:増分CPAの一定水準(例:○○円以下)や増分CV数の確保など。
- Do(実行)
- 実験設定や広告クリエイティブの作成、入札戦略の調整を行い、一定期間配信する。
- Check(評価)
- テスト群とコントロール群の結果から、増分CV数・増分CPAを算出し、施策の有効性を分析。
- アトリビューションモデルやリフト分析を用いて、他チャネルとの兼ね合いも把握。
- Action(改善)
- 増分CPAが高い(=費用対効果が低い)部分は予算削減やターゲット再設定を検討。
- 効果が高かった施策は広く適用し、次のテストでさらにブラッシュアップを図る。
このように、「計画 → 実行 → 評価 → 改善」のサイクルを繰り返すことで、増分効果に着目した正確な費用対効果の把握が可能になります。最終的には、最小限の予算で最大限の新規獲得や売上増を実現できるようになるため、増分CPAという指標を意識してPDCAを回すことは広告運用の精度向上につながる重要な取り組みと言えるでしょう。
増分CPAの総括
増分CPA(Incremental CPA)は、広告施策によって「本当に増えたコンバージョン」に焦点を当てた指標です。通常のCPAでは把握しきれない純粋な増分効果を測定できるため、無駄なコストを削減し、広告投資の効率化を図るうえで大いに役立ちます。
Google Adsや他のプラットフォームでの実験手法を駆使し、ぜひ自社の広告運用最適化に活用してみてください。